大規模な地震、水害、火災といった予期せぬ災害は、企業の事業継続（BCP）にとって最大のリスクです。オフィスビルや工場において、日常のセキュリティ対策は万全でも、非常時における人命の安全確保と迅速な避難誘導は、また別の専門的な対策が求められます。

特に、セキュリティゲートを導入している企業では、そのゲートが日常の「防御壁」から一転して「避難の妨げ」になってしまうリスクを考慮しなければなりません。ゲートを適切に機能させ、むしろ災害時の人命救助と情報保全の強力なツールに変えるための戦略的な備えが必要です。

本記事では、セキュリティゲート導入企業が直面する非常時の課題を明確にし、人命救助、迅速な安否確認、そして重要資産の保全という三つの柱に基づいた、具体的かつ実践的な対応策を、企業や組織の意思決定者・担当者の方々に向けて、徹底的に解説していきます。

災害時におけるセキュリティゲートの役割と潜在的リスク

日常的に不正侵入を防ぐ役割を担うセキュリティゲートですが、災害時にはその役割が一変します。ゲートが適切に動作しなければ、パニックを引き起こし、避難の遅れにつながる重大なリスクとなる可能性があります。

企業の担当者は、セキュリティゲートが災害時にどのような役割を果たし、どのようなリスクを内包しているかを正確に把握しておく必要があります。

非常時のセキュリティゲートの機能と必須要件

災害時にセキュリティゲートに求められる最も重要な機能は、「自動での強制開放」です。火災報知器や緊急地震速報、停電などを検知した際には、認証の有無にかかわらず、全てのゲートが瞬時に開き、避難経路を確保できなければなりません。

この強制開放機能が確実に動作するためには、ゲートシステムとビル全体の防災システムとの完璧な連携が必須となります。また、万が一のシステム故障や停電時にも、物理的な手動操作で容易にゲートを開放できる設計も重要です。これは、人命を最優先するためのセキュリティゲートの最低限の義務です。

ゲートが避難を妨げる「３つのリスク」

適切な対策がなされていないセキュリティゲートは、以下の３つの重大なリスクを発生させ、避難を妨げる要因となります。

リスク１：停電によるゲートロック

停電が発生した場合、ゲートの電源が落ちてしまい、扉やバーが閉じたままロック状態になることがあります。この場合、避難経路が遮断され、多くの人が閉じ込められる危険性があります。

対策として、非常用電源（UPS）の確保や、フェイルセーフ設計（停電時に自動で開放される構造）のゲート選びが求められます。

リスク２：パニックによる押し合い

地震や火災発生時、人々はパニック状態に陥り、一斉にゲートに殺到します。ゲートの処理能力を超えた人数が押し寄せると、押し合いへし合いが発生し、ゲート周辺で二次的な事故や怪我が発生するリスクが高まります。

リスク３：システムエラーと誤作動

災害によるシステムへの負荷や損傷によって、ゲートの制御システムが誤作動を起こし、ゲートが予期せず閉鎖されるなどの事故も考えられます。システムの耐障害性と復旧の容易さが鍵となります。

人命を最優先する！ゲートを活用した迅速な避難誘導

災害時対応において、人命の安全確保は最優先事項です。セキュリティゲートを、ただ開放するだけでなく、避難誘導の「コントロールタワー」として活用する戦略が求められます。

避難経路の即時確保と優先順位の設定

災害発生時、従業員が向かうべき最も安全な場所へと導くための避難経路を、事前に設定しておく必要があります。ゲートシステムと連動し、緊急時には最も安全な避難口にあるゲートだけを視覚的に強調（例えば、緑色に点灯）して誘導する仕組みを構築すべきです。

全てのゲートを一律に開放するだけでなく、火災発生場所に近いエリアのゲートを一時的に閉鎖し、安全な迂回経路を確保するなど、状況に応じた柔軟なゲート制御ができるシステムが必要です。

リアルタイム入退室ログによる安否確認のスピード向上

セキュリティゲートが最も威力を発揮するのは、安否確認のフェーズです。クラウド型入退室管理システムに蓄積されたリアルタイムのログデータは、誰が、いつ、どこから退室したかを正確に把握するための唯一の情報源となります。

災害発生直後、システム管理者はログデータと避難場所の確認を連携させ、「施設内に残っている可能性のある人物」のリストを瞬時に作成できます。これにより、従来の電話やメールに頼る安否確認よりも、圧倒的なスピードと正確性で人命救助の必要性を判断できます。

ゲート周辺の混雑を避けるための設計と訓練

ゲート周辺のパニックを避けるためには、日常的な訓練と、物理的な設計の両面からの対策が必要です。

訓練の重要性

全従業員に対し、非常時にはゲートが自動で開放されること、慌てずに一人ずつ落ち着いて避難経路に従うことを、定期的な避難訓練を通じて徹底すべきです。

物理的設計

ゲート周辺の避難経路には、家具や障害物を一切置かず、十分な幅を確保しておく必要があります。また、ゲートから避難口までの導線上に、非常灯や誘導灯を設置し、停電時にも視覚的に避難経路を把握できるように設計します。

【災害時にゲートを活用する人命優先アクション】

事業継続のための重要資産と情報保全策

人命の安全が確保された後、企業の担当者が次に注力すべきは、重要資産、特にデータや研究成果などの機密情報が保管されたエリアの保全です。セキュリティゲートは、このフェーズでも極めて重要な役割を果たします。

非常時におけるアクセス権の自動的な見直し

災害時の混乱に乗じた、外部からの不正侵入や、内部関係者による情報の持ち出しリスクは無視できません。セキュリティゲートシステムは、災害発生と同時に、「アクセス権を自動的に最高レベルの制限」へと切り替える設定をしておくべきです。

たとえば、一般従業員の高機密エリアへのアクセス権を一時的にすべて無効化し、権限を持つ限られた責任者のみがアクセスできるようにします。これにより、混乱時の不必要なエリアへの立ち入りや不正行為を未然に防ぎます。

ゲートログと監視カメラ連携によるトレーサビリティの確保

重要エリアへのアクセスが許可された人物であっても、その行動は厳重に監視される必要があります。セキュリティゲートのログと、監視カメラの映像は常に連動し、アクセス履歴を詳細に記録する体制を維持すべきです。

災害後の調査において、誰がいつ重要資産エリアに入退室したかというトレーサビリティは、内部不正や物的損害の原因を究明する上で不可欠な証拠となります。クラウド上で安全にログを保存し、データが失われないようにすることが重要です。

遠隔でのゲート制御による二次被害の防止

地震や水害によって建物の安全性が損なわれた場合、二次被害を防ぐため、外部からの侵入を徹底的に防ぐ必要があります。クラウド型システムであれば、管理者は遠隔地から特定のゲートを強制的に閉鎖・ロックすることができます。

これにより、警備員が現場に駆けつけられない状況でも、重要エリアへの物理的なアクセスを遮断し、資産の盗難や破壊行為を防ぐことができます。この遠隔制御機能は、BCPの観点からも極めて価値の高い機能です。

セキュリティゲートシステムの災害対策設計と冗長化

非常時にもセキュリティゲートが確実に機能し続けるためには、導入前の設計段階から災害対策を組み込んでおく必要があります。システムの耐障害性と冗長性を高めることが、備えの核心です。

非常用電源（UPS）によるシステム維持

ゲートの制御システムや認証リーダー、そしてゲートログを管理するサーバー（または通信機器）は、停電時にも動作し続ける必要があります。これには、無停電電源装置（UPS）の導入が不可欠です。

UPSは、ゲートの強制開放機能を作動させるだけでなく、避難完了までの間、ログ記録と安否確認システムを維持するための電力を供給します。どの機器にどれだけの容量のUPSが必要かを、事前に専門家と連携して計画すべきです。

ネットワークとクラウドサービスの多重化

クラウド型入退室管理システムを利用している場合、通信障害やクラウドサービス自体の障害リスクも考慮しなければなりません。ネットワーク回線は、有線と無線（モバイル回線）の両方を備え、自動で切り替わる冗長化を構築すべきです。

また、ゲートの認証制御をクラウドだけでなく、ローカルサーバーにもキャッシュさせておくことで、一時的な通信障害時にもゲート制御や認証を継続できるようにすべきです。このローカル制御機能は、システムの可用性を大幅に高めます。

物理的な耐震・防水設計の徹底

セキュリティゲート本体や、周辺の制御盤は、地震による転倒や損傷を防ぐために、床や壁に強固に固定する耐震設計が必要です。特に、水害の恐れがあるエリアでは、制御機器を浸水しない高い位置に設置したり、防水性の高い筐体を選ぶなど、物理的な防御策を講じます。

これらの物理的な対策は、システムの機能維持と、二次的な被害を防ぐ上で非常に重要です。

災害対応の有効性を高めるための訓練と周知徹底

高性能なシステムと設計があっても、それを使いこなす従業員の意識と訓練が不十分であれば、非常時対応は成功しません。定期的な訓練とマニュアルの周知徹底が、企業のBCPを実効性のあるものにします。

実地訓練によるシステム連携の確認

年に一度は、火災報知器の作動や模擬停電といった実際の災害を想定した訓練を実施し、セキュリティゲートの強制開放機能が確実に作動するか、避難誘導灯が適切に点灯するかを検証すべきです。

訓練では、単に避難するだけでなく、安否確認システムの操作手順や、ゲート手動開放の手順も、担当者に徹底的に教育します。システムが自動で動かない場合に、人手で対応できる能力を身につけることが重要です。

従業員への「ゲート非常時対応マニュアル」の周知

全ての従業員に対し、非常時にゲートがどのように動作するのか、そしてどのように避難すべきかを明記した「ゲート非常時対応マニュアル」を配布し、周知徹底すべきです。

マニュアルには、ゲートが故障した場合の迂回経路や、パニック時に取るべき行動など、具体的な指示を盛り込みます。このマニュアルは、オフィス内の掲示板や、デジタルサイネージ、従業員向けアプリなど、複数のチャネルで常にアクセス可能な状態にしておくべきです。

従業員全員の冷静な行動こそが、災害時のゲートシステムを最大限に活かす鍵となります。

ゲートを基点とした災害後の復旧と事業再開計画

災害対応は、避難が完了した後も続きます。セキュリティゲートのログデータは、災害後の復旧作業を安全かつ効率的に進める上でも、重要な役割を果たします。

復旧チームのアクセス権限再設定と管理

災害後の現場検証や復旧作業は、限られた専門家やチームが行う必要があります。通常時のアクセス権とは別に、「災害復旧モード」のアクセス権限を事前にクラウドシステムに設定しておき、復旧作業開始と同時に適用すべきです。

これにより、復旧チーム以外の人間が危険なエリアに立ち入ることを防ぎ、作業の安全性を確保します。また、作業時間やエリアの入退室を厳格に記録し、不正や二次被害の発生をチェックします。

損害状況の確認とゲートログの活用

セキュリティゲートのログデータは、災害によって建物や資産が損害を受けた際、その損害発生時刻の特定や、損害エリアへの最終アクセス者を特定する上で役立ちます。

特に、保険金の請求や法的調査が必要となった場合、このゲートログが客観的な証拠として機能します。システムは、監査対応が容易な形式でログを長期間安全に保持できるように設計すべきです。

衛生管理とゲートの非接触認証の役割

災害時には、衛生環境が悪化し、感染症のリスクが高まることがあります。この点からも、顔認証や手のひら静脈認証といった非接触型のセキュリティゲートが非常に有効です。

認証時に機器に触れる必要がないため、衛生的な入退室管理を維持でき、復旧作業中の二次的な健康被害リスクを低減できます。これは、現代のBCP対策において不可欠な要素となりつつあります。

企業の社会的責任（CSR）とゲートシステムの透明性

災害時の対応は、企業の社会的責任（CSR）の一環として、外部からも厳しく評価されます。セキュリティゲートの運用は、その透明性と信頼性を高める上で重要な役割を担います。

地域社会やビル管理者との情報共有

複合ビルに入居している場合や、地域社会に大きな影響を与える施設の場合、災害発生時のセキュリティゲートの挙動や、避難状況について、ビル管理者や自治体と事前に情報共有のプロトコルを確立すべきです。

特に、ゲートの強制開放やロックダウンの状況を速やかに連携することで、ビル全体の避難誘導や、周辺地域の危機管理体制に貢献できます。単なる自社内対策に留まらない連携が求められます。

BCP対策としてのゲート導入の外部アピール

セキュリティゲートの導入は、日常のセキュリティ強化だけでなく、「災害時にも人命を最優先し、事業継続のための万全の備えをしている」という企業の信頼性を示すメッセージにもなります。

このBCP対策の一環としてのゲート活用法を、企業のウェブサイトやCSRレポートで外部に積極的にアピールすることで、ステークホルダーからの信頼を一層高めることができます。

セキュリティゲート導入企業にとって、災害時の備えは、単なる機器の機能チェックではなく、人命を守り、事業の持続可能性を保証するための経営戦略そのものです。この包括的な視点を持つことが、現代の企業担当者に求められる責務でしょう。