「夜勤中、ふと玄関の方を見ると、入居者様が外に出ようとしていた」
「ヒヤリハット報告書の半数が、離設(徘徊)に関する内容で埋まっている」
介護施設の管理者様、現場リーダーの皆様にとって、「徘徊(ひとり歩き)」による事故防止は、最も神経を使う業務の一つではないでしょうか。
特に、認知症の方の行動は予測が難しく、24時間365日、人間の目だけで監視し続けるには限界があります。
かといって、玄関を常時施錠することは、他の利用者様や来訪者の利便性を損なうだけでなく、施設全体の閉塞感にもつながりかねません。
そこで今、多くの先進的な施設が導入を進めているのが、「徘徊防止システム機能を備えたセキュリティゲート」です。
今回は、単なる「鍵」ではなく、テクノロジーで人の目を見守る「セキュリティゲート」の活用策について解説します。
スタッフの精神的負担を減らし、利用者様の安全と自由を両立させるための、具体的な導入ガイドです。
この記事でわかること
・なぜ「見守り」だけでは徘徊事故を防げないのか
・顔認証やタグ検知を活用したセキュリティゲートの仕組み
・「施錠」ではなく「検知」で守る、身体拘束にならない運用法
・導入によって削減できる「見守りコスト」と現場のメリット
徘徊対策として、最も古典的かつ確実なのは「玄関の施錠」です。
しかし、これは現代の介護現場において、多くの課題をはらんでいます。
介護保険法や高齢者虐待防止法の観点から、安易に居室やフロアを施錠し、利用者様の行動を制限することは「身体拘束」とみなされる可能性があります。
「安全のため」という理由はあれど、利用者様の尊厳を守り、自由な生活を支援するという介護の本来の目的とは矛盾してしまいます。
「いつ誰が出ていくかわからない」というプレッシャーは、現場スタッフにとって計り知れないストレスです。
特に夜勤帯は少人数体制となるため、オムツ交換やコール対応をしている隙に、玄関から出ていってしまうリスクが高まります。
「玄関が気になって業務に集中できない」
この心理的負担が積み重なり、燃え尽き症候群(バーンアウト)による離職につながるケースも少なくありません。
「人を増やせないなら、仕組みを変える」。この発想の転換が必要です。
セキュリティゲート(または徘徊感知システム連動型の自動ドア)の最大の特徴は、「通して良い人と、注意が必要な人をシステムが自動で判別する」点にあります。
すべての扉をロックするのではなく、必要な時にだけ機能する。
これが、開かれた施設環境と安全管理を両立させる鍵となります。
利用者様の靴や衣服、杖などに小型の「検知タグ」を取り付けておく方法です。
タグを持った利用者様がゲート(玄関やエレベーターホール)に近づくと、システムが反応します。
【動作の仕組み】
・アラート通知:事務所の受信機やスタッフのスマホに「〇〇様が玄関に接近」と通知。
・自動ロック:タグを検知した瞬間だけ、自動ドアが開かなくなる(ロックされる)。
この方式のメリットは、タグを持っていない一般の来訪者やスタッフには反応しないため、普段はスムーズな出入りが可能である点です。
近年、急速に普及しているのがAIを用いた顔認証技術です。
カメラが近づいてくる人の顔を瞬時に解析し、事前登録された「見守り対象者」であればアラートを出したり、ドアをロックしたりします。
【顔認証のメリット】
・装着物が不要:タグを嫌がって外してしまう方や、持ち物を特定できない方にも有効。
・非接触:感染症対策の観点からも衛生的。
・記録が残る:「いつ、誰が、どこを通ったか」が画像付きでログに残るため、万が一の際の状況確認が容易。
それぞれの方式の比較
・タグ方式:確実性が高いが、タグの紛失や電池切れのリスク管理が必要。
・顔認証方式:手ぶらで管理できるが、マスク着用時や照明環境によって精度が左右される場合がある(※最新機種はマスク対応も進化中)。
では、実際にセキュリティゲートを導入することで、現場にはどのような変化が生まれるのでしょうか。
具体的なシチュエーションで見てみましょう。
夕食の準備や服薬介助などでスタッフがフロア内を動き回る時間帯は、玄関への注意が散漫になりがちです。
【導入後】
玄関を凝視する必要がなくなります。
もし徘徊リスクのある利用者様が玄関に近づけば、スタッフが持っているインカムやスマホに即座に通知が届きます。
「〇〇さんが玄関に向かっています」という通知を受けてから駆けつければ間に合うため、スタッフは目の前の介助に集中できます。
従来の「常時施錠」の施設では、面会に来たご家族がいちいちインターホンを押し、忙しいスタッフが鍵を開けに行く必要がありました。
【導入後】
セキュリティゲートなら、対象者以外にはドアが開く設定にできるため、ご家族は自由に(あるいはパスコード入力などでスムーズに)入退館できます。
「閉鎖的な施設」という印象を払拭し、「開かれた地域に根ざした施設」としてのブランディングにも寄与します。
夜勤スタッフにとって、徘徊感知機器は「もう一人の夜勤スタッフ」です。
エレベーターや階段口にゲート(センサー)を設置することで、居室エリアから出ようとする動きを早期に察知。
事故が起きる前の「予兆」の段階で対応が可能になります。
予算には限りがあります。すべてのドアに高価なゲートを設置する必要はありません。
事故リスクの高い場所をピンポイントで守る「ゾーニング」の考え方が重要です。
外部と直結する場所は、最終防衛ラインです。
ここは、自動ロック機能付きのゲートや、顔認証システムの導入効果が最も高いエリアです。
転倒・転落事故のリスクが高い場所です。
ここでは「ロック」よりも「通知」を重視します。
「エレベーターに乗ろうとしている」ことがわかれば、スタッフが声掛けに向かうことができます。
季節によっては、窓や勝手口からの離設も考えられます。
ここには簡易的なセンサーや、窓の開閉検知センサーを組み合わせることで、低コストに対策が可能です。
運用ルールの策定が成功の鍵
システムを入れるだけでは機能しません。
・アラートが鳴った時、誰が(どのフロアの担当が)見に行くか
・タグの装着状況をいつ確認するか(入浴時など)
・システムが誤作動した時の緊急対応
これらをマニュアル化し、避難訓練と同様に定期的に確認することが重要です。
導入を検討する際、最大のネックとなるのが「コスト」と「家族・利用者の理解」です。
これらをどうクリアすべきか、実践的な視点でお伝えします。
セキュリティシステムの導入には、数十万〜数百万円の初期投資がかかります。
しかし、これを「高い」と判断する前に、人材採用コストと比較してみてください。
介護職員を一人採用するのにかかる広告費や紹介手数料は、数十万円にのぼります。
さらに、見守りの負担でスタッフが疲弊し、退職してしまえば、その損失は計り知れません。
システム導入により「夜勤が楽な施設」という評判が立てば、定着率が上がり、結果的にトータルコストは下がります。
国や自治体は、介護現場の生産性向上を強く推進しています。
「介護ロボット導入支援事業」や「ICT導入支援事業」などの補助金対象になるケースが多くあります。
・見守りセンサー
・インカムシステム
・介護記録ソフトとの連携
これらをセットで導入することで、費用の1/2〜3/4程度が補助される可能性があります。必ず管轄の自治体情報をチェックしましょう。
顔認証やタグ管理に対して、「監視されているようで不快だ」と感じるご家族もいらっしゃるかもしれません。
説明の際は、以下のポイントを強調してください。
・「閉じ込めるためではありません。可能な限り自由に動いていただくための安全装置です」
・「スタッフが常に見張る必要がなくなる分、お一人おひとりとの会話やケアの時間が増えます」
・「万が一の際も、映像記録があることで早期発見につながります」
最後に、多くのメーカーから出ている製品を選ぶ際の基準をまとめます。
今ある自動ドアをそのまま使えるか、それとも扉ごとの交換が必要か。
また、現在使用しているナースコールシステムと連動できるか。
これによって工事費用が大きく変わります。「後付け可能」なタイプがコストパフォーマンスに優れています。
「スタッフが通るたびにアラートが鳴る」ようでは、現場はアラート音に慣れてしまい(狼少年状態)、いざという時に反応できなくなります。
検知エリアの広さや感度を細かく設定できる機器を選びましょう。
24時間稼働するシステムだからこそ、夜間や休日でもトラブル対応してくれるメーカーや代理店を選ぶことが必須です。
「止まりました」では済まされないのが介護現場のセキュリティです。
徘徊防止のためのセキュリティゲート導入は、決して利用者様を管理・監視するためのものではありません。
むしろ、不要な施錠や過度な行動制限をなくし、施設内での自由な生活を守るためのインフラです。
そして何より、現場で働くスタッフから「いつ事故が起きるかわからない」という重圧を取り除くことができます。
心の余裕が生まれれば、それは必ず利用者様への笑顔や、丁寧なケアとなって還元されます。
「事故ゼロ」と「自由な生活」。
相反するように見えるこの二つを、最新のテクノロジーを活用して両立させていきましょう。
まずは、補助金の活用診断や、デモ機の設置相談から始めてみてはいかがでしょうか。
前回の記事では、徘徊防止システムの導入が「身体拘束の廃止」と「安全確保」の両立にいかに有効か、その概略とメリットを中心にお伝えしました。
しかし、現場の管理者様が本当に知りたいのは、さらにその先にある「具体的な運用の泥臭い部分」ではないでしょうか。
「顔認証カメラを入れたけれど、マスクをしていると反応しない」
「アラートが鳴りすぎて、スタッフがオオカミ少年状態になっている」
「個人情報の取り扱いについて、家族から突っ込まれたらどう答えればいい?」
高価なシステムを導入しても、運用設計が甘ければ、それはただの「高価な置物」になりかねません。
逆に、細部までルールを詰め、法的なリスクケアも万全にしておけば、これほど頼もしい相棒はいないのです。
今回は、導入決定後に直面する「設置・法務・保守・教育」の実践的な課題を解決するための、現場運用マニュアル完全版をお届けします。
カタログには載っていない、失敗しないための「使いこなし術」を持ち帰ってください。
この記事の実践ポイント
・センサーの「死角」と「誤作動」をなくす設置位置の正解
・家族トラブルを防ぐ「同意書」と「プライバシーポリシー」の雛形
・「鳴りっぱなし」を防ぐ感度調整と、スタッフの連携フロー
・意外と見落とす「保守メンテ」:電池切れとレンズ汚れの悲劇を防ぐ
セキュリティゲートや顔認証カメラを設置する際、単純に「自動ドアの真上」や「玄関の内側」につけて終わりにしていないでしょうか。
実は、センサーの設置位置には、建築構造と人の心理を考慮した「黄金の配置」があります。
多くの施設には、外気や風の流入を防ぐための「風除室(玄関の二重扉の間のスペース)」があるはずです。
徘徊防止において、このスペースは非常に重要です。
1. 内側のドア(居住区側):
ここで「検知」を行います。顔認証カメラやタグ受信機はここに設置します。
対象者が近づいた時点で、外側のドアをロックする信号を送ります。
2. 外側のドア(屋外側):
ここが「物理的な防御ライン」になります。
重要なのは、「内側のドアが開いても、外側のドアが開かなければ外には出られない」という時間差を作ることです。
内側のドアが開いた時点でアラートが鳴れば、対象者が風除室の中に留まっている数秒間のうちに、スタッフが駆けつけることができます。
「施設の外に出てしまってから追いかける」のと「風除室で声をかける」のでは、事故のリスクが雲泥の差です。
顔認証システムにおける最大の敵は「光」です。
特に夕方の西日が強く差し込む玄関や、背景が極端に明るいガラス張りのロビーでは、カメラが「逆光」になり、顔が黒く潰れて認識精度が落ちるケースがあります。
・カメラの角度を少し下向きにする
・玄関マットの色を明るくしてレフ板効果を狙う
・(可能なら)遮光フィルムを窓に貼る
設置業者任せにせず、朝・昼・夕の光の加減を確認してカメラ位置を決定してください。
「利用者の安全のため」とはいえ、個人の顔写真(生体データ)を登録し、行動を追跡することは、個人情報保護法の観点から慎重な対応が求められます。
後々のトラブルを避けるために、入居契約時やシステム導入時に必ずクリアすべき書類手続きがあります。
顔認証データは、指紋や静脈と同様に「個人識別符号」が含まれる高度な個人情報です。
通常の入居契約書とは別に、専用の同意書を用意しましょう。
同意書に盛り込むべき3つの柱
1. **利用目的の限定:**「離設事故防止および入退館管理のためのみに使用し、それ以外の目的(職員の査定など)には使用しません」と明記。
2. **データの保存期間:**「退去後、〇〇日以内にデータを完全に消去します」と約束。
3. **第三者提供の禁止:**警察からの捜査協力依頼などを除き、外部にデータを出さないことを誓約。
センサータグを衣服に縫い付けたり、外せないようにロックしたりする行為は、「身体拘束」のグレーゾーン(あるいは黒)とみなされるリスクがあります。
これを回避するためには、ケアプラン(施設サービス計画書)への記載が必要です。
「認知症による突発的な離設リスクが高く、生命の安全を守るためにやむを得ずタグを使用する」という緊急性・非代替性・一時性の要件を満たした記録を残し、ご家族の同意を得ておくことが、施設とスタッフを守る盾となります。
「ピー!ピー!」と警告音が鳴っているのに、「また誤作動だろう」と誰も動かない。
これでは何百万円かけてシステムを入れた意味がありません。
アラートに対する感度を保つための運用工夫が必要です。
導入初期は、センサーの感度が高すぎて、例えば「ポスターの顔写真」や「スタッフの顔」に過剰反応してしまうことがあります。
最初の1ヶ月は「調整期間」と割り切り、メーカーの技術者を呼んで感度調整(閾値の設定)を繰り返してください。
・スタッフの顔を「除外リスト」に登録し、スタッフが横切っても反応しないようにする。
・検知エリアを「玄関マットの上」だけに絞る。
音が鳴った時、「誰かが行くだろう」という心理的バイアスが最も危険です。
施設全体にブザーを鳴らすのではなく、インカム(トランシーバー)やスタッフ用スマホに通知が飛ぶ設定にしましょう。
【推奨フロー】
1. 通知受信:「玄関センサー反応」
2. 声かけ:「Aユニット、リーダー田中、確認に行きます」
3. 現場確認:「誤作動でした」または「〇〇様を保護しました」
4. 完了報告:「対応終了、戻ります」
この「宣言・確認・報告」のループを徹底することで、責任の所在を明確にします。
機械は必ず劣化しますし、環境は変化します。
日々の業務の中に、ごく簡単な「システム点検」を組み込んでください。
タグ検知方式の最大の弱点は「電池切れ」です。
多くのタグは電池寿命が1年〜2年ですが、個体差があります。
「電池交換管理表」を作成し、入居者様ごとにタグのIDと使用開始日を記録。交換予定月の1ヶ月前にはアラートが出るよう、カレンダーや管理ソフトに入れておきましょう。
玄関周辺の天井隅に設置されたカメラは、埃やクモの巣がつきやすい場所です。
レンズの前にうっすらとクモの巣がかかっているだけで、顔認証の精度はガクンと落ちます。
月に1回の「高所清掃デー」を設け、エアダスターなどで埃を飛ばす習慣をつけましょう。
また、冬場は寒暖差でレンズが結露することもあります。防曇(ぼうどん)仕様のカメラでない場合は、結露防止スプレーなどの対策も有効です。
最新のゲートシステムは強力ですが、それを補完する「環境づくり」を行うことで、さらに徘徊リスクを下げることができます。
認知症の方の心理に基づいた「行きたくなくなる玄関」を作るのです。
認知症の方は、視覚情報に強く影響されます。
「ドアノブがあるから回したくなる」「光が見えるから行きたくなる」のです。
・自動ドアのガラス面に、本棚や木々の絵が描かれた「トリックアート・フィルム」を貼る。
・ドアノブと同色のカバーをかけ、視覚的に認識しづらくする。
・出口付近の照度を少し下げ、居室方面(戻る方向)を明るく照らす。
これらの環境対策(ハード)と、セキュリティゲート(システム)を組み合わせることで、スタッフが駆けつけるまでの時間を稼ぐことができます。
ゲートで止めることはできますが、利用者様の「家に帰りたい」という気持ちを消すことはできません。
無理に止めると、興奮や暴力につながることもあります。
玄関の手前に、あえて「バス停のようなベンチ」や「お茶が飲める談話スペース」を設けてみてください。
「バスが来るまでここで待ちましょうか」と声をかけ、クールダウンしていただく。
セキュリティゲートは、あくまで最後の砦であり、その手前でのケアが本質であることを忘れないでください。
セキュリティゲートの導入は、決して「スタッフが楽をするため」だけのものではありません。
それは、「人間には不可能な24時間の集中監視」を機械に任せ、人間は「人間にしかできない温かいケア」に回帰するための投資です。
運用を開始してしばらくは、調整やトラブルで戸惑うこともあるでしょう。
しかし、そこで諦めずに「感度の調整」「ルールの見直し」「ご家族への説明」を丁寧に続けていけば、必ず施設全体の空気が変わる瞬間が訪れます。
「最近、玄関のことを気にせず、ゆっくり利用者様と話せるようになったね」
スタッフ間でそんな会話が生まれた時こそ、システム導入が成功した証です。
まずは、今あるヒヤリハット報告書を見直してみてください。
どの場所で、どの時間帯にリスクが高まっているか。
そこから、あなたの施設に最適な「守り方」が見えてくるはずです。